伯耆大山北壁 墓場尾根(左尾根)
2010年12月

『墓場尾根は厳しかった。』 これが、完登した後の、二人の正直な感想である。


墓場尾根を登りきり日暮れギリギリに主稜線に出た。危うくタイムアウトになりそうだった。
両側が切り立ち,、強風吹きつけ、逃げ場無い墓場尾根上でのビバーグは不可能である。

登った後、強風に飛ばされない様、主稜線をはずさないよう、這いつくばる様に真っ暗になった主稜線を
ヘッデンの灯りをたよりに下りる。伯耆大山を知り尽くしたCharでも、稜線巾や方向を確認しながら、
慎重に進んで行く。 約1時間後。 『(ユートピア)小屋が見えた!(Char)』と叫んだ!
凍りついて開かなくなった扉を強引にこじ開け、中に流れ込む。  ホッとした。


墓場尾根は全ての事を要求して来た。体力・技術・経験など総合力を平気な顔して試してくる。
墓場尾根は最近登っている人が少ないため情報は少なく、我々が入手できた情報としては、
14ピッチの泥尾根で一切支点は無く、途中撤退は出来ないという事くらいである。
泥尾根の情報だが実際は岩屑の塊である。壁が立ってるところは、バイルが利かない。
バイルが利くとこを探すため何度も腕を振り、予想以上の体力を消耗する。
岩屑の塊とはいっても、ハーケンを打っても、すぐに岩屑が剥離して、きまらない。
墓場尾根下部には枝細い潅木が少しあるが、中部以降は支点を取る事もできない。
リードもフォローも失敗は絶対に許されない。 切れ立ったナイフリッジが長くつづく中間部以降は
谷底に降りるのは困難だと感じた。もし撤退するなら、下部でしか考えられない。
25mロープが出るとリードの姿が見えなくなるほどのホワイトアウトした状態。
ゴールが見えない状態での登攀は時間との勝負。気持ちが焦り、時計を見るたび不安がよぎる。

この尾根は安易な気持ちでは入れない。 不確定要素が多すぎる危険な尾根・墓場尾根である。



伯耆大山北壁概念図 (日本登山体系より)


全景に関しては当日悪天候のため、過去の写真で紹介します。
三鈷峰からの北壁全景(2009年2月撮影)
雪が少ない為、残雪期の様相である。大屏風岩や墓場尾根の斜面には雪が付いて無い。傾斜がきつい為である。

元谷から撮影(2008年3月初旬撮影)
墓場尾根の左の砂すべり、墓場尾根中央ルンゼ、右の元谷沢・天狗沢  
どれも、雪崩の巣であるのが良くわかる。撤退で安易に入るのは危険である。

尾根取り付き地点から撮影(2010年3月中旬撮影)
墓場尾根の尖岩群がよくわかる。



福岡を夜出発し、大雪降るの中、8時間かけて伯耆大山に。車中で1時間半くらい仮眠する。
当日天候はやや荒れ模様だが何とか登れない事はなさそう。
南光河原駐車場に車を置き暗闇を出発。年末年始の大寒波到来で、新雪の量も多い。
大神山神社からワカンを装着し、元谷小屋に。ここで、シュラフなど荷物を置いて墓場尾根へと目指す。
年末年始休みのこの時期、元谷から北壁へのトレースは無かった。大寒波到来の悪天候では仕方ないのか・・・。
去年も悪天候だった為か、ルート整備で入ってた広島のN越さん以外、僕らだけであった。
元谷小屋から一番遠い墓場尾根までラッセルする。体力と時間をダブルで取られる。
取り付きは既に8時半を過ぎていた。

墓場尾根取り付き箇所撮影。左尾根を行く。



取り付きはブッシュの為、雪崩を注意し、左尾根と右尾根に挟まれた中央ルンゼを詰める。
0p 標高150mほど登ったとこからブッシュが終わり岩壁が現れる。ここから、アイゼン装着。
雪壁をダブルアックスで登る。最初からきわどかった。アンザイレンで尾根へ取り付く。



1p(M) 取り付きすぐの垂直岩壁を越えなければならない。
みっちぃ、勢い良くリードで取り付くが、岩屑壁のため、バイルが跳ね返される。
Charリード交代し、きまらないハーケンを打ちたし、バイルを持たず、手で登る。
ホールドも乏しく、なかなか、上がれない。その他両サイドのルートも模索したが無理のようである。
途中で落ちれば、0pまで、落ちてしまう・・・・。強風と同じくらいの臆病風が吹く。
『(覚悟を)決めて行ってみる。(みっちぃ)』。再度、チャレンジ。
核心部はバイル先端を岩に引っ掛けただけで、スタンスを上げる。それを3手ほど繰り返し、
やっと、ピックがきまるとこまで達した・・・・ホッ・・・・。会心の突破!細い潅木の枝でビレイ。



2p(C)  出だし傾斜がきつい。何度も叩きバイルきまるとこ探しながら登る。
時間を要するので、足にくる。細い潅木でランニング取れたのが少しでも救い。


3p(M)  時間節約のためランニングコンテで2ピッチ分かせぐ。
これから先は撤退は困難と思われた。
このピッチから潅木はほとんど無い。ここからは、ランナーは取れない。
終了点も、バイルが刺さる安定したところでセルフとって、ビレイするしかない。
ナイフリッジを長めに進む。 ホワイトアウトしたリッジは恐怖感との戦いだった。


4p(C) この垂直の約10mの岩壁が越えられない・・・。
バイルもきまらない、ホールドも無い。   周囲を見回したChar、
『ここは一旦、右下の雪面ルンゼに降りて、V字型に登れるかもしれん。とりあえず、行って見てくる』と降りて行く。
活路を見出したようだ。 厳しい雪壁を登り尾根にでる。 貧弱な潅木とアックス2本でビレイポイント工作。
 風も次第に強くなっていく。


5p・6p(M)  続く岩峰の凹角を巧みに登り、その後両側が極度に切れ立ったナイフリッジが続く。 
 両サイドが垂直に切れ落ちてるため、本当のナイフの刃先のように逆V字型になってるとこは、馬乗りで行く。
大山主稜線のナイフリッジがかわいく見えるくらい細く切れ立っている。
『馬乗りだと時間がかかるから・・・』と言うCharは立って二足歩行で岩稜リッジを行く。
途中、切れ落ちたところが何箇所か有り、ナイフリッジのクライムダウンは足がすくむ。
またがってるリッジは凍ってるから良いけど、夏だと崩壊するよね〜と考えながら・・・。
このナイフリッジが崩壊してしまうと、支点がとりづらいこの尾根は登れなくなる。近年中にそうなるかもしれない・・。
長く伸ばした5p・6pはナイフリッジの為、リード交代不可能だ。


7p(C)  長く起伏の激しいナイフリッジはランニングが取れない。
少しでもピナクルのようなものがあれば、スリングを巻く。
『まじ落ちしたら、意味無いやろう・・・』と気休めにもならない支点をお互い苦笑い。
ナイフリッジからやや緩くなった左側壁に出て潅木でビレイ点工作。


8p(M)  長いナイフリッジを通り越し岩壁にさしかかる。直登は無理と判断しかぶり気味の左側壁から尾根に出る。
薄い氷ときまらない岩屑壁に、両腕両足の力を消耗させながら、息も絶え絶えに50mいっぱい行く。
もちろんコールは聞こえない。  ロープの流れだけで息をあわす。


9p(C)  尾根の左側壁を進み、ルンゼ状の雪壁を登る。岩屑壁は、相変わらずバイルがきまらない。
体力が消耗してきたが、先が見えない状況で、ゆっくり休んでるわけにはいかない。
壁の中で肩で息する姿も見える。ここまできて、些細な怪我も許されない。
お互い気持ちが切れないよう心に強く言い聞かせながら登る。
最近、人が入らない理由がわかってきた。・・・・・・



10p(M) 再び恐怖のナイフリッジ。貧弱なアックス支点に腰がらみで確保。落ちれば止める事は困難。
気温も下がってき、手足の指先が痛む。感覚が無い。ビナのゲートも開けないくらい、指先が動かない。
みっちぃの前髪とまつげがつながって凍って海老の尻尾になり、Charの眉から5cmのつららが下がる。


11p(C) これが、最終のピッチとなった。最後の力を振り絞り登る。
ナイフリッジを進み左側壁に廻りこむ。アックスがはね返され疲労が最大に達する。
小ハングを越えると、ブッシュ付きの尾根頂に。『ここから傾斜ゆるいね。』と少し嬉しくなる。
ここから、コンテに切り替え、尾根を登る。しばらくで稜線に。


『登った・・・・・稜線ついた・・・・』  時間は夕暮れ迫る17時。取り付きから8時間以上費やしてる。

時間は無い、すぐに位置と降りる方向を確認する。

風雪の中、ヘッデンを灯してユートピア小屋を探す。北壁側の稜線から離れず、
東側の支尾根に迷い込まないように下降する。

ユートピア小屋に到着したのは18時。暗闇の中、本当に安堵した。小屋の前で握手をかわす。

氷点下の小屋でビバーグ。凍える夜は体温を取られないように、体操座りで眠る・・・。眠れん・・・・。
『みっちぃ耐寒訓練』と称し、ツエルトも張らず、小屋にあった毛布も出さず、寒さに強い余裕のChar。



墓場尾根、全11ピッチでしたが、時間が無かった為、
長めに進んだと思います。本来なら、13〜14ピッチだと感じました。

登り終えたあと『しばらくは、楽しいスノーハイクとか登ろうね!』とお互い苦笑いで話す。

とても良い経験をさせてもらいました。墓場尾根、アリガトウ!!!




Char@いきものがかり みっちぃ☆AKB48

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